矯正

大人の歯が生えてこない場合の治療
大人の歯が生えてくる時期になっても生えてこない状態を萌出遅延ほうしゅつちえんもしくは埋伏歯まいふくしといいます。
最も頻度が高いのは第三大臼歯(親知らず)で、親知らず萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしとなった場合は、抜歯が適応となります。親知らず以外の大人の歯が萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしとなった場合は、咬み合わせや歯並びへの影響が大きく、様々な治療方法、治療のタイミングを検討する必要があり、矯正歯科医を中心としたインターディシプリナリー治療が必要となります。この治療は当院が得意とする領域でもあります。ここでは、親知らず以外の大人の歯が萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしとなった場合の治療をみていきましょう。

目次

01.萌出遅延・埋伏歯の原因と診断

萌出遅延(ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしの原因は様々あります。
過剰歯や良性腫瘍などの病変
顎の骨の中には、本来の歯とは別の過剰な歯(過剰歯)や様々な種類の腫瘍などの病変が生じることがあり、これが大人の歯が生えてくるのを妨げることがあります。
のエックス線写真は、歯牙腫のために右上の2番目の大人の歯が生えて来られない状況になっている例です。
歯の位置や方向の異常
歯が出来る過程で、何らかの原因により、歯の位置や方向がズレることにより、歯が生えてこないことがあります。
のCT画像は、左上の5番目の大人の歯が内側に向いており、埋伏歯まいふくしとなっている例です。
はっきりした原因が不明な場合
上の2つの原因は、エックス線検査で診断できますが、明らかな原因が認められなくても、生えてくることが遅い場合もあります。歯肉(歯ぐき)が厚く固い場合や、子どもの歯が早期に抜けて、骨が緻密ちみつに(しっかりと)治ってしまった場合、大人の歯の生えてくる力が弱い場合などが考えられますが、確立された検査方法や明確な判断基準はありません。
そのような場合の萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしを疑う歯の診断は、左右反対側の同じ種類の歯が生える時期と比較したり、一般的な歯が生える順番や、歯根(歯の根っこ)の成熟具合を考慮したり、さらには、数ヶ月経過した後の歯の動きをエックス線検査で比較することも含めて、総合的に検討して診断します。

02.治療の考え方

萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしでも、外科手術により埋まっている歯に矯正装置を着けて、引っ張り出すように矯正の力を加えれば、生やすことが可能な場合が多いです。このような一連の処置を開窓かいそう牽引けんいん処置と呼んでいます。しかし、一般的な歯科矯正治療に比べると、手術や時間的な負担が大きいのも事実ですので、次のようなことを考えて治療を組み立てていきます。
  • 1.歯が生えるのを妨げる原因の除去
    まずは、過剰歯や腫瘍などの病変の摘出を行います。歯肉の肥厚ひこう、骨の緻密化ちみつかが疑われる場合は、歯肉の切開、骨の削除(開窓術かいそうじゅつ)を行います。また、萌出遅延ほうしゅつちえんの歯の位置や方向に異常がある場合は、生え換わる予定の乳歯を早期に抜歯することも検討します。
  • 2.歯を生やすメリットは?
    歯並び・咬み合わせの状態によっては、埋まっている歯を生やすメリットが小さいことがあります。歯並びのでこぼこが著しい方など、最終的な咬み合わせを想定したときに、永久歯の抜歯を伴う歯科矯正治療が適応となる場合は、萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしの歯を生やそうとせずに、優先的に抜歯することも検討します。
    また、歯並び・咬み合わせの問題がほとんど無い方や、もともと大人の歯の本数が少ない方など、多少、生やすのが困難そうな萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏まいふくの歯でも、開窓かいそう牽引けんいん処置にチャレンジするメリットが大きくなる状況もあり得ます。
  • 3.歯が並ぶスペースの確保は必要?
    本来生えているはずの歯が埋まっていることによって前後の歯が傾いている、もしくは、もともと顎の大きさに対して歯が大きいなどの理由で、歯が並ぶスペースが無い場合は、歯科矯正治療によって歯を動かし、埋まっている歯を並べるスペースを確保する必要があります。
  • 4.歯が自然と生える力(萌出力)にどれくらい期待できる?
    萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏まいふくの歯の成熟度合いによっては、歯が生えるのを妨げる原因を除去したり、歯が並ぶスペースを確保したりすることで、歯が自然と良い位置に動いてくることが期待できます。
    歯の成熟度合いの判断は、エックス線検査で歯根の完成度合いを診ます。歯根が完成していない歯は、まだ萌出力ほうしゅつりょくが残っていることが多く、歯根が完成した歯は、ほとんど萌出力ほうしゅつりょくが残っていないと言われています。萌出力ほうしゅつりょくに期待できない場合は、牽引けんいん処置が適応となることが多いです。
    また、まだ萌出力ほうしゅつりょくに期待できる状態でも、歯の位置や方向が著しくズレている場合も、良い位置に歯を動かすために牽引けんいん処置が適応となります。
※保険適用外の治療です。
※※使用する材料によって、保険適用が決まります。
  • 5.埋まっている歯の前後の歯への影響は?
    大人の歯は、進む先の骨や子どもの歯の根を吸収しながら生えてきます。大人の歯の位置や方向に異常があるとき、前後の歯に向かって進んでしまうことがあり、前後の歯の根を吸収してしまうことがあります。のエックス線写真では、右上の3番目の歯(赤の点線)が埋伏歯となり、右上の1番目の歯(青の点線)の根を吸収している様子がわかります。重篤な場合には、吸収された歯がグラグラし、抜歯せざるを得ない場合もあります。
    また、埋まっている歯の位置が著しくズレていて、歯の並び順が異なっていることもあります。歯を生やす場所は、本来の歯の並び順に生やすのが理想的ですが、狭い顎の骨の中で並び順を治す際に、埋まっている歯が前後の歯の根と当たってしまい、根が短くなってしまうこともあります。そのような危険が大きい場合は、歯の並び順を治さずに並べることも検討します。
  • 6.埋まっている歯を生やしたり、抜いたりした後は?
    埋まっている歯を開窓かいそう牽引けんいんして生やした後でも、多くの場合は歯並びや咬み合わせの問題が残ります。せっかく生やした歯が十分に機能しなければ、生やしたメリットが半減しますので、緊密な咬み合わせを得るための矯正治療の適応となります。
    埋まっている歯を生やすことを断念し、抜いた場合も、歯並びや咬み合わせの問題が残る場合があります。多くの場合は本来生えるはずだった歯が足りなくなることで、歯並びに隙間があることが問題となります。矯正治療で改善しても良いですが、ブリッジやインプラントでの治療も検討します。

03.治療の流れ

  • 初診
    ・お口の中全体を保険適用範囲内で診察し、歯並びや咬み合わせ以外の問題が無いか確認します。医療費の自己負担割合が3割の場合、約3,500円かかります。検査について詳しくはこちら
    ・他の治療のための検査で、萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしが発見される場合もあります。
  • 歯科矯正相談
    矯正担当医が診察し、予想される治療の概要を説明します。
  • 歯科矯正検査
    お口の中の写真、お顔の写真、CTを含むレントゲン写真の撮影、口腔内スキャナを使った型取りを行います。
  • 分析
    検査結果をコンピュータ解析し、問題点の抽出、治療目標、治療方法の検討を行います。
  • 歯科矯正診断
    分析の結果を説明し、患者様ひとりひとりに合わせた治療計画を提案致します。
  • 動的治療開始
    治療計画に同意いただければ、治療が始まります。
  • 原因の除去
    ・多くの場合は、部分麻酔での外科処置です。
    ・同時に牽引けんいん処置のための装置を着けたり、抜歯をしたりすることもあります。
  • 萌出スペースの
    確保
    ・約1ヶ月毎に来院して頂き、歯の動きの確認、矯正装置の調整などを行います。
    ・治療期間は3ヶ月〜半年程度です。
  • 経過観察
    約3ヶ月〜半年毎に埋まっている歯の動きをレントゲン検査で確認します。
  • 牽引処置
    ・約1ヶ月毎に来院して頂き、歯の動きの確認、矯正装置の調整などを行います。
    ・治療期間は個人差が非常に大きく、半年くらいで生えてくることもあれば、2〜3年要することもあります。
  • 抜歯
    萌出ほうしゅつさせるメリットが小さい場合、牽引けんいんしても萌出ほうしゅつしない場合は抜歯の適応となります。
  • 歯並び
    咬み合わせの
    改善
    ・矯正治療の場合は、約1ヶ月毎に来院して頂き、歯の動きの確認、矯正装置の調整などを行います。
    ・期間は約1年半〜2年半程度です。
  • 動的治療終了
    ・歯並び、噛み合わせが改善した後、矯正装置を撤去し、後戻りを防ぐための治療(保定)に移行します。
    ・後戻りを防ぐための保定装置を装着します。
  • 保定メンテナンス
    ・保定期間中はおよそ3ヶ月毎に保定装置のチェックを行います。
    ・原則、動的治療後2年間は保定を行うことを推奨しております。
    ・保定期間中、保定終了後も、歯科衛生士による3ヶ月毎のメンテナンスを推奨しております。
    ・矯正治療を行っていない場合は、3ヶ月毎のメンテナンスのみです。

04.治療のリスク

むし歯・歯周病
矯正装置を装着することで、歯磨きが難しくなり、むし歯や歯周病になる可能性があります。むし歯や歯周病になりやすい方や、上手く歯を磨けていない方は、矯正治療とは別に歯科衛生士によるメンテナンスを受けることを推奨しています。
歯ぐきが下がる
歯を動かすことで、歯の周囲の歯肉(歯ぐき)が下がって、歯の根が露出したり、歯と歯の間の隙間が目立つようになったりする場合があります。なるべく、そのようなことが起こらないように治療計画を立案しますが、もともと歯のでこぼこが著しい場合などは起きやすいです。また、萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくし開窓かいそう牽引けんいんした場合は、歯の動きに歯肉が付いて来ないことが多いです。見た目が気になる場合は歯周病専門医(歯肉を扱うスペシャリスト)と連携し、改善を図ることも可能です。
歯の根が短くなる
歯を動かすと歯の根(歯根)の一部が吸収されます。多くの場合は、問題となることはありませんが、もともと歯根が短い方や、通常よりも歯根が吸収されやすい方では問題となる場合があります。その際は、治療目標の変更を考慮する必要もあります。なお、萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしは、歯や歯根が低形成になりやすく、もともと歯根が短い場合もあります。
顎の関節の症状
歯を動かしている間、一時的に咬み合わせが不安定になることがあります。それに伴い、顎の関節に負担がかかり、口を開けると音が鳴る、痛む、口が開けにくいといった顎関節症の症状が起こる場合があります。多くの場合は、治療が進み、咬み合わせが安定すると改善しますが、顎関節症の治療を要する場合もあります。
歯が動きにくい・動かない
歯の動きやすさには個人差があります。また、非常に稀ですが骨性癒着こつせいゆちゃく といって、歯が周りの骨と固着して動かない場合もあります。これらは治療前の検査で予測することが難しく、“動かしてみて分かる”ことも多いです。その際は、治療期間の延長や、治療目標の変更を考慮する必要もあります。萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしは、骨性癒着こつせいゆちゃく となるリスクが若干高いと言われています。

05.費用

1.歯科矯正相談料 初回 無料
2回目以降 ¥3,000
2.歯科矯正検査・分析・診断料 ¥20,000
3.歯科矯正施術料 ⅰ 大人の歯がそろう前の矯正
¥300,000
ⅱ 大人の歯の矯正
(歯科矯正用アンカースクリュー料保定装置料含む)
表側に装置をつける矯正治療
¥650,000
裏側に装置をつける矯正治療
¥1,100,000
上の歯は裏側、下の歯は表側に装置をつける矯正治療
¥900,000
マウスピース矯正
¥780,000
マウスピース矯正(軽度な症例)
¥500,000
ⅲ 部分的な矯正 前歯だけの部分的な矯正
(部分的なマウスピース矯正)
片顎(上の歯だけまたは下の歯だけ)
¥390,000
その他の部分的な矯正
¥30,000+¥25,000
×矯正装置を装着する歯の本数
裏側に装置をつける場合の加算
¥250,000
4. 保定装置料 ¥50,000
5. 処置・調整・観察料 ⅰ マウスピース矯正以外の動的治療中 1回 ¥5,000
ⅱ マウスピース矯正の動的治療中、成長観察、保定期間中 1回 ¥3,000
*価格はすべて税抜きです
*大人の歯がそろう前の矯正から大人の歯の矯正(部分的な矯正を除く)に移行した場合、大人の歯の矯正の施術料から大人の歯がそろう前の矯正の施術料を差し引きます。

06.付加的な治療オプションと費用

i 歯科矯正用アンカースクリュー
歯を効率的に動かすために顎の骨に埋める小さいインプラントです。使用することが望ましいと 考えられた場合に提案致します。大人の矯正治療の場合は、この費用は歯科矯正施術料に 含まれます。
1本 ¥25,000
ii 埋伏歯に対する開窓牽引手術
稀に大人の歯が様々な理由で埋まったままなかなか生えてこない場合があります。その際は、 部分麻酔による手術で、埋まっている歯に矯正装置を付け、矯正によって引っ張り出す(牽引 する)こともあります。
¥30,000
iii ハイブリッド矯正
(表側または裏側に装置をつける矯正治療とマウスピース矯正を組み合わせた矯正治療) マウスピース矯正が苦手とする歯の動かし方を、表側または裏側に装置をつける矯正治療で行って から、マウスピース矯正を行う治療です。それぞれの治療法の長所を活かした治療法です。
¥780,000
+部分的な矯正に準じた費用
*価格はすべて税抜きです

07.三軒茶屋マルオ歯科矯正担当医の治療例

症例1
治療前
一見、歯並び・咬み合わせに問題は無さそうです。しかし、12才臼歯が生えかけているころには、通常は右側のように前から5番目の歯は大人の歯に生え変わっていることが多いですが、左上の前から5番目の歯が乳歯のままで、生え変わらないことを心配されて、来院しました。
レントゲンを撮影すると、左上の5番目の大人の歯が埋まっているままで、萌出遅延ほうしゅつちえん埋伏歯まいふくしとなっていることが分かりました。
CTで確認すると、左上の5番目の大人の歯が内側に向いていることが分かりました。他の歯並びに大きな問題が無いので、埋伏歯まいふくしを生やさないと、ブリッジかインプラントで治療する必要があります。今回は、天然の歯で咬み合わせを作ることを重視し、 開窓牽引かいそうけんいんを行うこととなりました。
開窓牽引手術
部分麻酔をして、歯肉(歯ぐき)を切開し、埋まっている歯を露出させ、牽引けんいんするための装置を接着しました。
牽引中
左右両側の6才臼歯に装置を着け、歯の内側にワイヤー(舌側弧線装置)を沿わせ、埋伏歯まいふくし牽引けんいんしました。
開窓牽引かいそうけんいん手術から6ヶ月後、埋伏歯まいふくしが順調に動いて、舌側弧線装置から牽引けんいんすることが出来なくなったので、歯の表側の装置(マルチブラケット装置)を着け、牽引けんいんを継続しました。
牽引終了時
埋伏歯まいふくしは90度以上捻れていましたが、本来の向きに並べることができました。
開窓牽引かいそうけんいん手術から2年2ヶ月経過しております。この後、ご希望に応じて緊密な咬み合わせを得るための矯正治療に移行します。
※本症例は、患者さんのご協力もあり、時間を掛けて埋伏歯まいふくしのねじれ(捻転)を治すことができましたが、時間を掛けられない、掛けたくない場合は、逆に180度捻れた状態で配列することもあります。
※HP掲載の同意を頂いております。